東京高等裁判所 平成9年(行ケ)248号 判決 1998年10月28日
アメリカ合衆国 ウィスコンシン州 53511 ベロイト
セント ローレンス アヴエニュー 1
原告
ベロイト・コーポレーション
代表者
ダーク・ジェイ・ヴェネマン
訴訟代理人弁理士
石川新
同
坂間暁
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
久保田健
同
蓑輪安夫
同
田中弘満
同
小林和男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成7年審判第26692号事件について、平成9年5月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、国際出願日を1988年2月11日(優先権主張・1987年2月13日、米国)とする特許出願(特願昭63-502287号)の一部を分割して、平成5年3月19日、名称を「ウエブの乾燥装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平5-59767号)が、平成7年10月17日に拒絶査定を受けたので、同年12月12日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成7年審判第26692号事件として審理したうえ、平成9年5月16日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年6月19日、原告に送達された。
2 本願発明のうち特許請求の範囲第1項記載のもの(以下「本願第1発明」という。)の要旨
ウエブ(W)の一方の面に直接面接触してウエブの一方の面を乾燥する一列に配置された複数の乾燥シリンダー(63);
各々が一列に配置された前記乾燥シリンダー(63)より小さい直径を有し、前記一列に配置された乾燥シリンダー(63)に接近して配置され、かつ隣接する前記一列に配置された乾燥シリンダー(63)の間に配置されると共に部分真空源に接続された複数の真空ロール;
及びウエブ(W)に接して前記一列に配置された複数の乾燥シリンダー(63)と前記複数の真空ロールのまわりを走行する第1のフェルト;
を備えた一列に配置された複数の乾燥シリンダーを有する乾燥部分;
ウエブ(W)の他方の面に直接面接触してウエブの他方の面を乾燥する一列に配置された複数の他の乾燥シリンダー(94);
各々が前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)より小さい直径を有し、前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)に接近して配置され、かつ隣接する前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)の間に配置されると共に部分真空源に接続された他の複数の真空ロール;
及びウエブ(W)に接して前記複数の他の一列に配置された乾燥シリンダー(94)と前記複数の他の真空ロールのまわりを走行する第2のフェルト(110);
を備えた一列に配置された他の複数の乾燥シリンダーを有する他の乾燥部分;
及び前記乾燥部分から前記他の乾燥部分ヘウエブ(W)を移送するウエブ移送手段(116);
を有するウエブの両面を乾燥する乾燥装置において;
前記ウエブ移送手段(116)は、前記乾燥部分と前記他の乾燥部分との間でフェルトに支持されない状態でウエブ(W)を移送するように構成されており;
前記フェルトに支持されない状態でのウエブの移送は第1ギャップと第2ギャップの間で行われ、前記第1ギャップは一列に配置された複数の乾燥シリンダーを有する前記乾燥部分の最後の乾燥シリンダー(63)の表面と前記第1のフェルト(72)の間に形成される拡開するギャップであり、前記第2ギャップは一列に配置された複数の他の乾燥シリンダーを有する前記他の乾燥部分の第1の他の乾燥シリンダー(94)の表面と前記第2フェルト(110)との間に形成される収斂するギャップであり、同収斂するギャップは前記拡開するギャップに対向して位置する;
ことを特徴とするウエブの両面を乾燥するウエブの乾燥装置。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明が、特公昭61-23319号公報(以下「第1引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」という。)及び特公昭60-29800号公報(以下「第2引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明2」という。)にそれぞれ記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の理由中、本願第1発明の要旨の認定、第1引用例の記載事項の認定(審決書5頁13行~11頁3行)、第2引用例の記載事項の認定のうち明細書の記載をそのまま摘記した部分(同11頁6行~12頁18行)、本願第1発明と引用例発明1との一致点及び相違点の各認定(同13頁15行~16頁17行)は認め、その余は争う。
審決は、本願第1発明と引用例発明1との相違点についての判断を誤った結果、本願第1発明が、第1、第2引用例にそれぞれ記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り)
審決は、本願第1発明と引用例発明1との相違点、すなわち、「一列に配置された乾燥シリンダーに隣接する一列に配置された乾燥シリンダーの間に配置されるターニング部材が、前者(注、本願第1発明)では、乾燥シリンダーより小さい直径を有し、一列に配置された乾燥シリンダーに接近して配置される真空ロールであるのに対して、後者(注、引用例発明1)では、このターニング部材が溝付き乾燥シリンダーである点」(審決書16頁11~17行)することを目的として、乾燥シリンダーと、巻き付き角度を大きくするターニング部材としての真空ロールとを採用したものである。したがって、引用例発明2は、シングルフェルトラン型式を離れては存在し得ない発明であり、ドライヤの型式・構造の如何にかかわらず「一列に配置されたドライヤ胴の間に配置されるターニング部材を・・・真空ロールとした」ものではない。
したがって、審決が、この点を看過し、ドライヤの型式の如何にかかわらないかのように引用例発明2の装置を抽象化して、第2引用例の記載事項を上記のように認定したことは誤りであり、その認定に基づく上記相違点の判断も誤りである。
(2) また、審決が、引用例発明1と引用例発明2とが共通点を有しているから、引用例発明2の乾燥装置の形式を引用例発明1の乾燥装置の形式に採用して、本願第1発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得るものと判断したことも、次のとおり誤りである。
ア 審決は、「第1引用例及び第2引用例に記載されたものは、共に単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置である点で共通し、」とするが、引用例発明1と引用例発明2とではドライヤの型式が全く異なっている。
すなわち、引用例発明1は、ウエブの両面を乾燥シリンダーと直接面接触させてウエブを両面から乾燥させる型式のものにおいて、ウエブが乾燥ワイヤによってシリンダー表面から離れるようになっているシリンダーでも、ウエブからの蒸発が増強されるように乾燥シリンダーのみを使い、かつ、ウエブの両面が各々複数の乾燥シリンダーと直接面接触して乾燥される2群の乾燥シリンダーを有する型式の乾燥装置である。
これに対し、引用例発明2は、上記(1)のとおり、ウエブをドライヤ胴に対し一方の面のみと面接触させて乾燥するシングルフェルトラン型式のウエブ乾燥装置において、シングルフェルトラン型式であるが故に生じるシートがフェルト外面を搬送されるときの乾燥損失を生じないようにすることを目的として、乾燥シリンダーと、巻き付き角度を大きくするターニング部材としての真空ロールとを採用した乾燥装置である。
イ また、審決は、引用例発明1と引用例発明2とが「フェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部材をまわるときに、それらに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにするという目的においても共通する」とするが、両者は、この点において型式・設計思想が異なっている。
すなわち、引用例発明1は、一列の乾燥シリンダーの間に溝付き乾燥シリンダーを配置した乾燥シリンダーのみからなる乾燥装置であって、これ自体で一つの設計思想の下に完成された装置である。
これに対し、引用例発明2は、乾燥損失を生じないことを目的に、複数のドライヤヘウエブを順次導く上で、ドライヤ胴への巻きつけ角度を増やす手段として真空ロールを採用するものである。
ウ このように、引用例発明1と引用例発明2とでは、型式・設計思想が全く異なっており、各々異なる目的を達成するために、それぞれの構成を採用したものである。したがって、それらの目的を無視して、抽象的な上位概念で両者の共通点を捉えるのは誤りである。
また、審決には、どういう技術思想で両者を結び付けるのか、という点についても、その考え方が示されていない。すなわち、本願第1発明は、ウエブにフラッターを発生させないこと、つまりウエブをばたつかせないことを目的にして、乾燥シリンダーとの接触面から離れる部分の長さをできるだけ短くするための構成として小径の真空ロールを採用したものであり、かつ、そのことにより、オープンドローを短くすることを可能としたものである。すなわち、ウエブの両面を乾燥シリンダーと直接面接触させて両面から乾燥させるようにしたものでは、その乾燥面の切り換えの箇所でフェルトに支持されない移送手段の部分(オープンドロー)を生じるが、本願第1発明では、真空ロールを乾燥シリンダーに接近して配置することと、2つの乾燥シリンダー群を水平方向に近づけて配置することにより、オープンドローを採用しつつも、フラッターを少なくしてウエブを両面から良好に乾燥させることを可能にしたものである。このことは、本願明細書(平成7年12月12日提出の手続補正書による補正後のもの、以下同じ。)の「紙ウエブ、即ち紙シートがドライヤー部分を通って前進する時、紙ウエブがフラッター(ばたつき)を起す傾向があるという重大な問題がある。そのようなシートのフラッターは、これらの隣接部分間をフェルトによって支持されないオープンドローの状態で・・・顕著である。」(甲第2号証の1第3頁25~末行)、「オープンドローを導入することは、シートのフラッターやウエブが多数破壊するという重大な問題を生ずることになる。」(同5頁8~9行)、「第1及び第2ドライヤー部分の各真空ロールは、各真空ロールとこれに対応する乾燥シリンダーとの間のフェルトドローが最小となるように、隣接する対応乾燥シリンダーに接近して配置され、それによって、ウエブが支持フェルトに対してフラッターを起こす傾向が防止される。」(同11頁11~14行)、「第3の複数の乾燥シリンダーより小さい直径を有する第3の複数の真空ロールは、各々、第3の複数の乾燥シリンダーの対応乾燥シリンダーに極く接近して配置される」(甲第2号証の2第5頁28行~6頁1行)等の記載によって、明確に読み取ることができる。
したがって、本願第1発明と引用例発明2とでは、真空ロールを採用する目的が異なっており、しかも、本願第1発明の目的のために、引用例発明1のドライヤに対し引用例発明2の真空ロールを組み合せることを第1、第2引用例は全く示唆していない。
引用例発明1、2を組み合せるためには、上記の本願第1発明の目的のような、組合せをもたらす技術思想が必要であり、これがなければ両者の組合せを考える必要がない。第1引用例と第2引用例には、本願第1発明のような技術思想は全くないから、引用例発明1と引用例発明2とを組み合せることが容易であるということはできない。
(3) さらに、次のとおり、引用例発明2を引用例発明1に組み合せても本願第1発明が容易に得られるものではない。
ア 引用例発明2においては、第1図のドライヤ胴1と2、同2と3、同3と4、同7と8との間に真空ロールがなく、ドライヤ胴5と6、同9と10との間には2つの真空ロールが配置されている。また、引用例発明2においては、第1図のドライヤ胴2が他のドライヤ胴と異なるウエブの面をフェルトを介して乾燥させており、すべてのドライヤ胴がウエブの同一側の面を乾燥させるものとなっていない。
したがって、引用例発明2の真空ロールを引用例発明1と組み合せても本願第1発明は導き出されないし、そもそも引用例発明1の乾燥シリンダー群の1つを、このように構成の異なる引用例発明2の真空ロールと置換しようとすることは容易ではない。
イ 引用例発明1の乾燥シリンダー群の1つを真空ロールに置き換えたとすると、その真空ロールは、相隣る乾燥シリンダーに近接配置されず、乾燥シリンダーと真空ロールとの間の距離(フェルトドロー)は極めて長くなる。
オープンドローでウエブがフラッターする傾向は、オープンドローの長さに依存するものであるところ、本願第1発明は、その要旨記載の構成によりフェルトドローを小さくし、結果的にオープンドローを短くするものであるから、フェルトドローを小さくすることは本願第1発明の目的の1つであるが、引用例発明1の乾燥シリンダー群の1つを真空ロールに置き換えることによっては、これが達成できなくなる。
第4 被告の反論の要点
1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り)について
(1) 原告は、引用例発明2がシングルフェルトラン型式のウエブ乾燥装置であって、シングルフェルトラン型式を離れては存在し得ない発明であるとして、審決が、第2引用例の記載事項として、「一列に配置されたドライヤ胴・・・に隣接する一列に配置されたドライヤ胴の間に配置されるターニング部材をドライヤ胴より小さい直径を有し、一列に配置されたドライヤ胴に接近して配置される真空ロールとした、点が記載されている」とした認定が誤りであると主張する。
しかしながら、引用例発明2がシングルフェルトラン型式のウエブ乾燥装置であることは認めるが、審決は、引用例発明2が、シングルフェルトラン型式の乾燥装置において、一列に配置されたドライヤ胴に隣接する一列に配置されたドライヤ胴の間に配置されるターニング部材が真空ロールとなっている点を捉えて認定したものであって、その認定自体に何ら誤りはない。
(2) 原告は、審決が、引用例発明1及び引用例発明2につき「共に単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置である点で共通し、」、「フェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部材をまわるときに、それらに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにするという目的においても共通する」と認定したことに対し、引用例発明1と引用例発明2とでは、型式・設計思想が全く異なっており、各々異なる目的を達成するために、それぞれの構成を採用したものであるから、それぞれの目的を無視して、抽象的な上位概念で両者の共通点を捉えるのは誤りであると主張する。
しかしながら、引用例発明2が、上記(1)のとおり、シングルフェルトラン型式の乾燥装置であり、また、引用例発明1が、ウエブの両面の各々が複数の乾燥シリンダーと直接面接触して乾燥される2群の乾燥シリンダーを有する型式の乾燥装置ではあることは認めるが、引用例発明1の各群の乾燥シリンダーの構成をみれば、単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する、いわゆるシングルフェルトラン型式の乾燥装置であるとみることができるから、両者が「共に単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置である点で共通し、」とした審決の認定に何ら誤りはない。
また、第1引用例には、引用例発明1において複数の乾燥シリンダーの間にターニング部材である溝付き乾燥シリンダーを設ける目的が、フェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部材を回るときに、それらに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにすることである旨の記載があり、第2引用例にも、複数の乾燥シリンダの間にターニング部材である真空ロールを設ける目的について、同趣旨の記載がある。したがって、両者が「フェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部材をまわるときに、それらに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにするという目的においても共通する」とした審決の認定にも誤りはない。
原告はさらに、本願第1発明は、ウエブにフラッターを発生させないことを目的にして、乾燥シリンダーとの接触面から離れる部分の長さをできるだけ短くするための構成として小径の真空ロールを採用したものであり、かつ、そのことにより、オープンドローを短くすることを可能としたものであるとし、本願第1発明と引用例発明2とでは真空ロールを採用する目的が異なっていると主張するが、本願第1発明について主張するようなことは、本願明細書に記載されていない。本願明細書の記載から理解されることは、単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置において、フェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部をまわるときに、それに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにするという目的を有していることである。そうすると、本願第1発明が真空ロールを採用する目的も、引用例発明1、2と共通するものである。
以上のほか、引用例発明1、2がともに製紙機の乾燥装置の技術分野に属するものであることを考慮すると、引用例発明1のシングルフェルトラン型式の乾燥装置の部分真空源に接続された溝付き乾燥シリンダーを、引用例発明2のシングルフェルトラン型式の乾燥装置の小さい直径を有する真空ロール(ターニングロール)に置き換えることにより、本願第1発明のように構成することは、当業者において容易にできたことである。すなわち、審決が、「第2引用例に記載されているような乾燥装置の形式を上記第1引用例に記載された乾燥装置の形式に採用して本願の請求項1に係る発明(注、本願第1発明)のようにすることは、当業者であれば容易になし得るもの」と判断したことに何ら誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について
(1) 第2引用例に「ドライヤ胴5はドライヤ胴4の直ぐ下部におかれ、ドライヤ胴4からドライヤ胴5を通る時、ウエブとフェルトはターニングロール14の上を通るがこのターニングロールはドライヤ胴上にウエブを実質的に180度の角度にわたって巻き付かせるように、上下ドライヤ胴間において僅かばかり右側に配置されている。ターニングロールに続き、フェルトの内側のウエブは底部のドライヤ胴5上をその表面と直接接触して通過する。」(審決書11頁6~14行)、「これらのターニングロールは平滑ロール、溝付きロール又は真空ロールのいずれでもよい」(同頁15~16行)との記載があることは、当事者間に争いがない。
そして、ターニングロール(ターニング部材)の作用目的はウエブの搬送方向を変えることであり、しかも、第2引用例(甲第4号証)の「本配列は空間的にコンパクトで、」(同号証8欄21行)との記載からも窺えるように、乾燥装置の各構成要素の配列をコンパクトにすることは一般的な課題であるものと認められるから、ターニングロールは、ウエブが極端にカールしない範囲で小径とすることが望ましいことは技術常識であり、現に第2引用例(甲第4号証)の図面第1図においても、引用例発明2のターニングロールがドライヤ胴よりも小径であることが示されている。また、第2引用例の前示「ターニングロールは・・・上下ドライヤ胴間において僅かばかり右側に配置されている」ことは、ターニングロールが、一列のドライヤ胴に接近して配置されていることを意味するものであることは明らかである。
そうすると、審決が、第2引用例に、「一列に配置されたドライヤ胴・・・に隣接する一列に配置されたドラ、イヤ胴の間に配置されるターニング部材をドライヤ胴より小さい直径を有し、一列に配置されたドライヤ胴に接近して配置される真空ロールとした、点が記載されている」と認定したことに誤りはない。
もっとも、引用例発明2がシングルフェルトラン型式のウエブ乾燥装置であることは当事者間に争いがなく、また、第2引用例(甲第4号証)には「ドライヤ部の改良の過程において、・・・“ウノ・ラン”又は“シングルフエルトラン”と呼ばれるものが知られている。・・・この“ウノ・ラン”はドライヤフエルトの配列の一つであり、この場合一枚のフェルトが上部及び底部のドライヤ胴の両方に巻き付くように使われ、・・・紙ウエブはフェルトと複数の上部ドライヤ胴との間にはさまれ、また複数の底部ドライヤ胴の回りを通る時はフェルトの外側上を進行する。・・・この配置の主な欠点は、底部ドライヤ胴ではウエブがフェルト外面上にありそのためフェルトが熱絶縁体とし作用し、ウエブへの効果的な熱伝達を妨げることによる大きな乾燥熱損失にある。本発明の重要な目的は、シングルフェルトランを利用するが、シートがドライヤ胴上のフェルト外面を搬送される時乾燥損失を生ずる不利をなくし、またシングルフエルト式であることおよび底部ドライヤ胴の乾燥損失がないことの利点を組み合せた良好な運転性を保有している改良型ドライヤ部を提供することにある。」(同号証3欄13~37行)との記載、「本配列では、ドライヤ駆動群内にはオープンドロー(無支持引張区間)がなく、ウエブは常時フェルトで支持されている。最初の底部ドライヤ胴を除けば、ウエブはいつもフェルトとドライヤ胴との間にはさまれている。従って、ウエブが底部ドライヤ胴上のフェルトの外面上を進行する一般のシングルフエルトドライヤで出会うような乾燥上の損失がない。またフェルトとウエブの巻き付き角度が大きいため、乾燥率は一般のドライヤより大きくなる筈である。」(同5欄3~12行)との記載があり、さらに前示争いのない「ドライヤ胴5はドライヤ胴4の直ぐ下部におかれ、ドライヤ胴4からドライヤ胴5を通る時、ウエブとフェルトはターニングロール14の上を通るがこのターニングロールはドライヤ胴上にウエブを実質的180度の角度にわたって巻き付かせるように、上下ドライヤ胴間において僅かばかり右側に配置されている。ターニングロールに続き、フェルトの内側のウエブは底部のドライヤ胴5上をその表面と直接接触して通過する。」(審決書11頁6~14行)との記載もある。これらの各記載と図面第1図の表示によれば、引用例発明2は、従来のシングルフェルトラン型式の乾燥装置において、ウエブがドライヤ胴上のフェルト外面を搬送されるときに、フェルトが熱絶縁体として作用し乾燥損失を生ずる欠点をなくすことを重要な目的とし、そのために、ウエブが常にフェルトとドライヤ胴との間にはさまれるようにし、ドライヤ胴に対しウエブの一方の面のみを直接面接触させて乾燥させる改良型のシングルフェルトラン型式としたうえ、ウエブの乾燥シリンダ外面における巻き付き角度を従来より大きくして乾燥率を上げるために、ターニングロールをドライヤ胴に接近させて(ドライヤ胴間において僅かばかり右側に)配置したものと認められる。
しかるところ、原告は、引用例発明2がシングルフェルトラン型式を離れては存在し得ない発明であり、審決が、ドライヤの型式・構造の如何にかかわらないかのように引用例発明2の装置を抽象化して第2引用例の記載事項を認定したことが誤りであると主張する。
しかしながら、審決は、引用例発明2の「一列に配置されたドライヤ胴の間に配置されるターニング部材をドライヤ胴より小さい直径を有し、一列に配置されたドライヤ胴に接近して配置される真空ロールとした」構成を、引用例発明1に適用することの当否を検討する前提として、前示第2引用例の記載事項の認定をしたものであるところ、後記(2)アのとおり、2群の乾燥シリンダーからなる引用例発明1のそれぞれの群の乾燥シリンダーの構成は、これをウエブの一方の面のみを乾燥シリンダ群と直接面接触させて乾燥させるシングルフェルトラン型式の乾燥装置であるとみることができるものであるから、審決は、引用例発明2の記載事項を認定するに当たって、それがシングルフェルトラン型式の乾燥装置であることを無視したものではなく、むしろ、シングルフェルトラン型式の乾燥装置であることを前提として、一列に配置されたドライヤ胴の間に接近して配置される小径のターニング部材としての真空ロールの構成を認定したものと認めるのが相当である。
したがって、原告の上記主張は当を得たものということができず、これを採用することができない。
(2)ア 第1引用例に「ウエブの一方の面に直接面接触してウエブの一方の面を乾燥する一列に配置された複数の乾燥シリンダ;
各々が一列に配置された前記一列に配置された乾燥シリンダに隣接する前記一列に配置された乾燥シリンダの間に配置されると共に部分真空源に接続された複数の溝付き乾燥シリンダ;
及びウエブに接して前記一列に配置された複数の乾燥シリンダと前記複数の溝付き乾燥シリンダのまわりを走行する第1シリンダ群のフェルト;
を備えた一列に配置された複数の乾燥シリンダと一列に配置された複数の溝付き乾燥シリンダを有する第1シリンダ群;
ウエブの他方の面に直接面接触してウエブの他方の面を乾燥する一列に配置された複数の第2シリンダ群の乾燥シリンダ;
各々が前記一列に配置された第2シリンダ群の乾燥シリンダに隣接する前記一列に配置された第2シリンダ群の乾燥シリンダの間に配置されると共に部分真空源に接続された第2シリンダ群の複数の溝付き乾燥シリンダ;
及びウエブに接して前記複数の第2シリンダ群の一列に配置された乾燥シリンダと前記複数の第2シリンダ群の溝付き乾燥シリンダのまわりを走行する第2シリシダ群のフェルト;
を備えた一列に配置きれた第2シリンダ群の複数の乾燥シリンダと複数の溝付き乾燥シリンダとを有する第2シリンダ群;
及び前記第1シリンダ群から前記第2シリンダ群へウエブを移送するウエブ移送手段;
を有するウエブの両面を乾燥する乾燥装置」(審決書8頁14行~10頁4行)である引用例発明1が記載されていることは当事者間に争いがなく、この記載及び第1引用例(甲第3号証)の図面第2図によれば、引用例発明1は、第1シリンダ群及び第2シリンダ群のそれぞれにおいて、いずれも単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置であることが認められる。
他方、第2引用例(甲第4号証)の前示各記載及び図面第1図によれば、引用例発明2が単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置であることも認められる。
そうすると、審決が、「第1引用例及び第2引用例に記載されたものは、共に単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置である点で共通し、」(審決書17頁5~9行)と認定したことに誤りはない。
もっとも、引用例発明1が、ウエブの両面が各々複数の乾燥シリンダーと直接面接触して乾燥される2群の乾燥シリンダーを有する型式の乾燥装置であることは当事者間に争いがなく、引用例発明2が、ドライヤ胴に対しウエブの一方の面のみを直接面接触させて乾燥させるシングルフェルトラン型式のウエブ乾燥装置であることは前示(1)のとおりであるところ、原告は、引用例発明1と引用例発明2とでは、ドライヤの型式が全く異なっており、抽象的な上位概念で両者の共通点を捉えるのは誤りであると主張する。
しかしながら、前示第1引用例に記載された引用例発明1の構成によれば、引用例発明1は、いずれも、単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡してウエブをフェルトに常に支持された状態とし、ウエブの一方の面のみを乾燥シリンダ群と直接面接触させて乾燥させる型式の乾燥装置である第1シリンダ群及び第2シリンダ群をそれぞれ基本的な構成単位としており、第1シリンダ群から第2シリンダ群へウエブを移送するウエブ移送手段を介して、それらを組み合せたものであることが認められる。このことは、第1引用例(甲第3号証)の特許請求の範囲第1項の「抄紙機の乾燥部のはじめの部分の乾燥シリンダ群に使用される乾燥用のワイヤすなわち布状組成体を、1つの列のシリンダが布状組成体のループの外側に位置し別の列のシリンダがこのループの内部に位置するように配置し、ウエブを、ここに設けられる乾燥シリンダ群のはじめから終わりまでずっと1つの同じ布状組成体によって支持しながらシリンダの1つの列から別の列へとジグザグ状で進行させるようにした、抄紙機の乾燥部の中で閉送り状態でウエブを送るための方法において、シリンダの扇形部におけるウエブが布状組成体の外側に位置するような列における少くとも1部のシリンダのところで、ウエブにこれらシリンダのくぼみ付き表面を通して差圧を作用させて、ウエブの外側の圧力をくぼみ付き表面のくぼみの中の圧力より大ならしめ、かくすることによって布状組成体からのウエブの離脱を阻止しかつ抄紙機の連続運転を確実にすることを特徴とする抄紙機の乾燥部の中でウエブを送る方法。」(同号証1欄2~20行)との記載、「シリンダ群とはそのシリンダが1つの乾燥用のフエルトまたはワイヤを共通することを意味する。」(同号証6欄39~41行)との記載、当事者間に争いのない「第1図に示されている抄紙機の多段シリンダ乾燥装置の第1乾燥シリンダ群は1列の上方シリンダ10aおよび一列の下方シリンダ20aを有する。」(審決書5頁13~16行)、「第2図に示されるこの発明による配備は乾燥部において連続する2つのシリンダ群100および200を有し、第1群100の下方列におけるシリンダ20aは溝付きシリンダであり、後続群における上方シリンダ20bも溝付きシリンダである。」(同7頁2~7行)との各記載及び図面第1、第2図に照らし、第1引用例には、単一の布状組成体(フェルト)によって支持され、複数のシリンダーを進行させるようにしたウエブを送る方法によって構成される発明が記載され、この構成を組み合わせた具体例として、2つのシリンダー群を有する引用例発明1が開示されていると認められることによっても裏付けられる。
そうすると、引用例発明1の基本的な構成単位であるそれぞれの群の乾燥シリンダーの構成は、単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡してウエブをフェルトに常に支持された状態とし、ウエブの一方の面のみを乾燥シリンダ群と直接面接触させて乾燥させるシングルフェルトラン型式の乾燥装置にほかならないから、かかる意味において、引用例発明1と引用例発明2とが異なった型式の乾燥装置であるとすることはできず、したがって、これが全く異なった型式であることを前提とする原告の主張は採用することができない。
イ 第1引用例(甲第3号証)の前示特許請求の範囲第1項の記載、「この発明の目的は特に、乾燥シリンダをおおうワイヤの外面上にウエブが位置するような状態においてウエブを乾燥ワイヤに隣接するように保持して抄紙機の作業の信頼性を改善することにある。」(同号証5欄8~12行)との記載、「上述した目的を達成するため、この発明の方法は、シリンダの扇形部におけるウエブが布状組成体の外側に位置するような列における少くとも1部のシリンダのところで、ウエブにこれらシリンダのくぼみ付き表面を通して差圧を作用させて、ウエブの外側の圧力をくぼみ付き表面のくぼみの中の圧力より大ならしめ、かくすることによって布状組成体からのウエブの離脱を阻止しかつ抄紙機の連続運転を確実にすることを主な特徴とする。上述のくぼみ付き表面は望ましくはシリンダの溝付き表面であり、」(同5欄24~35行)との記載、及び当事者間に争いのない「布状組成体40aおよびその外面上のウエブWは角度βで下方シリンダ20aを囲む。この扇形部βの外側の残りの扇形部αの上には、シリンダ10aの間の間隙の中の真空室30aが配置される。」(審決書6頁12~16行)、「真空室30aの中の減圧されている真空空間からの吸引作用はシリンダ20aの外殻内の溝22を介してシリンダ20aの扇形部βに作用する。この吸引作用の結果として、ウエブwは保持されシリンダ20aの扇形部βにおける布状組成体40aから離れない。」(同6頁17行~7頁2行)、「第2図に示されるこの発明による配備は乾燥部において連続する2つのシリンダ群100および200を有し、第1群100の下方列におけるシリンダ20aは溝付きシリンダであり、後続群における上方シリンダ20bも溝付きシリンダである。」(同7頁3~8行)との各記載によれば、第1引用例には、引用例発明1の第1、第2シリンダ群とも、ウエブがフェルトの外側に位置するような列におけるシリンダーを溝付き乾燥シリンダーとし、該溝付き乾燥シリンダーからフェルトを通してウエブに真空(差圧)を作用させて、フェルトからのウエブの離脱を阻止することが開示されているものと認められる。
また、第2引用例に、「ターニングロールは平滑ロール、溝付きロール又は真空ロールのいずれでもよいが、第2図に符号23で示すPVロールとして知られているようなものが好適である。この第2図図示のものは外部の回転円筒25で囲まれた静止した内部管24を有する。内部管24には円周の半分に矢印24aで示したように空気の内部への流れができるように孔があいている。一対の直径方向に対立した漏れ止め24bと24cとが内部管と同心の回転円筒25との間に延在しており、これにより真空が回転円筒25の上半分が及ぶようになっている。このようなPVロール組立体はウエブがその上を通過する時、円筒の真空部分がウエブに当るように位置せしめられる。」(審決書11頁15行~12頁8行)、「真空ロールをターニングロールとして使うことで、ウエブがドライヤ胴の全部の通路でフェルト内面上に連続的に支えられているため、確実な通紙が達成されるし、またウエブが外側面で搬送され、逆転回する場合、真空式PVロールの真空でフェルトに保持される。」(同12頁12~17行)との各記載があることは当事者間に争いがなく、これらの記載及び第2引用例(甲第4号証)の図面第2図によれば、引用例発明2において、複数の乾燥シリンダの間にターニングロールとして真空ロールを設ける技術的意義は、ウエブがフェルトの外側に位置する状態でターニングロールをまわるときにウエブに真空を作用させて、ウエブがフェルトから離脱することを防ぐことにあるものと認められる。
そうすると、審決が、引用例発明1と引用例発明2とが「フェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部材をまわるときに、それらに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにするという目的においても共通する」(審決書17頁9~13行)と認定したこと誤りはない。
原告は、引用例発明1が乾燥シリンダーのみからなる乾燥装置であるのに対し、引用例発明2が乾燥損失を生じないことを目的にドライヤ胴への巻きつけ角度を増やす手段として真空ロールを採用するものであるとして、引用例発明1と引用例発明2とでは、型式・設計思想が全く異なっており、それぞれの目的を無視して、抽象的な上位概念で両者の共通点を捉えるのは誤りであると主張する。
しかしながら、ターニング部材として引用例発明1が1列の乾燥シリンダーを採用し、引用例発明2がドライヤ胴の間に接近して配置されるターニングロールを採用したことについては、それぞれの発明の目的を達成するためであるものとしても、引用例発明1が1列の乾燥シリンダーを溝付き乾燥シリンダーとしてウエブに真空を作用させるものとした目的と、引用例発明2がターニングロールを真空ロールとしてウエブに真空を作用させるものとした目的とが同一であることは前示のとおりであって、この点において、引用例発明1と引用例発明2とが型式・設計思想を全く異にするとか、該共通点の認定がそれぞれの目的を無視して抽象的な上位概念で両者の共通点を捉えるものとする原告の主張は失当である。
ウ 引用例発明1及び引用例発明2は、ともに製紙機のウエブの乾燥装置の技術分野に属するものであるところ、第2引用例に、一列に配置されたドライヤ胴に隣接する一列に配置されたドライヤ胴の間に配置されるターニング部材を、ドライヤ胴より小さい直径を有し、一列に配置されたドライヤ胴に接近して配置される真空ロールとしたものが記載されているとした審決の認定に誤りのないこと、また、引用例発明1と引用例発明2とが、共に単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥させる乾燥装置である点(すなわち、シングルフェルトラン型式の乾燥装置とみることのできる点)、及びフェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部材をまわるときに、それらに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにするという目的において、それぞれ共通するとした審決の認定に誤りのないことは、前示のとおりである。
そうすると、引用例発明1のターニング部材が溝付き乾燥シリンダーである構成に代え、第2引用例に記載された前示真空ロールの構成を適用し、本願第1発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たものと認められる。
原告は、引用例発明1、2を組み合せるためには、本願第1発明の目的のような、組合せをもたらす技術思想が必要であり、これがなければ両者の組合せを考える必要がないと主張し、さらに、該本願第1発明の目的につき、ウエブにフラッターを発生させないことを目的にして、乾燥シリンダーとの接触面から離れる部分の長さをできるだけ短くするための構成として小径の真空ロールを採用し、かつ、真空ロールを乾燥シリンダーに接近して配置することと、2つの乾燥シリンダー群を水平方向に近づけて配置することにより、乾燥面の切換えの箇所でフェルトに支持されない移送手段の部分(オープンドロー)を短くすることを可能としたものであるとしたうえ、第1、第2引用例は、この目的のため、引用例発明1のドライヤに対し引用例発明2の真空ロールを組み合せることを全く示唆しておらず、このような技術思想は全くないから、引用例発明1と引用例発明2とを組み合せることが容易であるといえないと主張する。
しかしながら、当業者が公知文献に記載された公知技術を組み合せて新規の構成とする際の推考容易性を判断する場合に、それを組み合せる目的若しくは技術思想又はその組合せに係る新規の構成の作用効果等が、細部にわたってすべて当該公知文献に記載又は示唆されていなければ、推考が容易でないとすることはできず、当該公知文献に接した当業者であれば通常着想することができ、又は予測することができる範囲内のものは、そこに記載又は示唆されていることを要しないものというべきである。しかるところ、本願第1発明1のウエブにフラッターを発生させないという目的に関するもののうち、乾燥シリンダーとの接触面から離れる部分の長さに係る問題は、乾燥シリンダーからターニングロールを経て次の乾燥シリンダーまでの間でウエブにフラッターを発生させないこと、すなわちフェルトドローにおいてフェルトによる支持を確実にすることに帰着するものであるところ、前示のとおり、引用例発明1はその目的のために真空を作用させ得るターニング部材として溝付乾燥シリンダーを用いる構成を採用しているのであるから、同様の目的及び作用のターニング部材として真空ロールを採用し、かつそれを乾燥シリンダーに接近した小径のものとした引用例発明2の構成に着目して、設計変更を試みることは当業者として至極通常のことというべきである。
また、乾燥面の切換えの箇所でオープンドローを短くすることを可能とするものとして原告が挙げたもののうち、真空ロールを乾燥シリンダーに接近して配置することに関しては、オープンドローを生ずる乾燥面の切換えの箇所に配置する真空ロール(例えば、本願明細書(甲第2号証の1)の図面第4図及び第9図の真空ロール70、同100)であれば、これを乾燥シリンダーに接近して配置することが、2つの乾燥シリンダー群相互の位置関係を水平方向に近づけることになり、ひいてオープンドローを短くすることに繋がるものといえるとしても、各乾燥シリンダー群内部にあって隣接する乾燥シリンダーの間に配置する真空ロール(例えば、本願明細書(甲第2号証の1)の図面第3図の真空ロール69、同第4図の真空ロール101)については、これを乾燥シリンダーに接近して配置することが、乾燥面の切換えの箇所でのオープンドローを短くすることに関わるものとはいえないし、本願明細書(甲第2号証の1~3)にもそのような趣旨の記載はない。しかるところ、本願発明の要旨に「各々が一列に配置された前記乾燥シリンダー(63)より小さい直径を有し、前記一列に配置された乾燥シリンダー(63)に接近して配置され、かつ隣接する前記一列に配置された乾燥シリンダー(63)の間に配置されると共に部分真空源に接続された複数の真空ロール」、「各々が前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)より小さい直径を有し、前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)に接近して配置され、かつ隣接する前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)の間に配置されると共に部分真空源に接続された他の複数の真空ロール」と規定される真空ロールは、「隣接する前記一列に配置された乾燥シリンダー(63)の間に配置される」、「隣接する前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)の間に配置される」との限定によって明らかなとおり、前示各乾燥シリンダー群内部にあって隣接する乾燥シリンダーの間に配置する真空ロールのことであり、前示オープンドローを生ずる乾燥面の切換えの箇所に配置する真空ロールは、乾燥シリンダーに接近して配置することを含め、本願発明の要旨に全く規定されていない。
さらに、乾燥面の切換えの箇所でオープンドローを短くすることを可能とするものとして原告が挙げたもののうち、2つの乾燥シリンダー群を水平方向に近づけて配置することも、本願発明の要旨に全く規定されていないことである。
そうすると、乾燥面の切換えの箇所でオープンドローを短くすることは、これを可能とするものとして原告が主張するものがいずれも本願発明の要旨に基づかないものであって、本願発明の固有の技術思想と捉えること自体ができないものといわざるを得ない。
したがって、原告の前示主張を採用することはできない。
(3) 原告は、さらに、引用例発明2を引用例発明1に組み合せても本願第1発明が容易に得られるものではないとして、引用例発明2において、隣接するドライヤ胴の間に真空ロールが配置されない場合と、2つの真空ロールが配置されている場合があること、引用例発明2において他のドライヤ胴と異なるウエブの面を乾燥させるドライヤ胴があることを主張し、また、引用例発明1の乾燥シリンダー群の1つを真空ロールに置き換えたとすると、その真空ロールは、相隣る乾燥シリンダーに近接配置されず、乾燥シリンダーと真空ロールとの間の距離(フェルトドロー)が長くなるものと主張する。
しかし、審決は、前示のとおり、第2引用例の「ドライヤ胴5はドライヤ胴4の直ぐ下部におかれ、ドライヤ胴4からドライヤ胴5を通る時、ウエブとフェルトはターニングロール14の上を通るがこのターニングロールはドライヤ胴上にウエブを実質的に180度の角度にわたって巻き付かせるように、上下ドライヤ胴間において僅かばかり右側に配置されている。ターニングロールに続き、フェルトの内側のウエブは底部のドライヤ胴5上をその表面と直接接触して通過する。」(審決書11頁6~11行)等の記載により、第2引用例に「一列に配置されたドライヤ胴・・・に隣接する一列に配置されたドライヤ胴の間に配置されるターニング部材をドライヤ胴より小さい直径を有し、一列に配置されたドライヤ胴に接近して配置される真空ロールとした」(同13頁7~12行)点が記載されていると認定したうえ、引用例発明2のこの部分の構成を、引用例発明1のターニング部材が溝付き乾燥シリンダーである構成に代えて適用し、本願第1発明のようにすることが容易であるとしているのであって、引用例発明2全体の構成を引用例発明1に適用しようとするものではないし、また、その置換適用の結果、引用例発明1における一列に配置された複数の乾燥シリンダー(引用例発明2のドライヤ胴)とターニング部材(置換前の溝付き乾燥シリンダー、置換後の真空ロール)との距離が「ドライヤ胴に接近して配置される」ことに変わるものであるから、原告の前示主張は到底採用できない。
(4) したがって、審決の相違点についての判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成7年審判第26692号
審決
アメリカ合衆国、ウイスコンシン 53511、ベロイト、セント ローレンス アヴェニュー、1
請求人 ベロイト・コーポレイション
東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 虎ノ門産業ビル 坂間・石川特許事務所
代理人弁理士 坂間暁
東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 岡本・松本特許事務所
代理人弁理士 岡本重文
東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 岡本・松本特許事務所
代理人弁理士 松本敏明
平成5年特許願第59767号「ウエブの乾燥装置」拒絶査定に対する審判事件(平成6年1月25日出願公開、特開平6-17395)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
Ⅰ.本願は、1988年2月11日(優先権主張1987年2月13日、米国)を国際出願日とする出願である特願昭63-502287号を、平成5年3月19日に特許法第44条第1項の規定により分割したものであって、その請求項1乃至5に係る発明は、平成7年12月12日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1には、次のように記載されている。
「ウエブ(W)の一方の面に直接面接触してウエブの一方の面を乾燥する一列に配置された複数の乾燥シリンダー(63);
各々が一列に配置された前記乾燥シリンダー(63)より小さい直径を有し、前記一列に配置された乾燥シリンダー(63)に接近して配置され、かつ隣接する前記一列に配置された乾燥シリンダー(63)の間に配置されると共に部分真空源に接続された複数の真空ロール;
及びウエブ(W)に接して前記一列に配置された複数の乾燥シリンダー(63)と前記複数の真空ロールのまわりを走行する第1のフェルト;
を備えた一列に配置された複数の乾燥シリンダーを有する乾燥部分;
ウエブ(W)の他方の面に直接面接触してウエブの他方の面を乾燥する一列に配置された複数の他の乾燥シリンダー(94);
各々が前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)より小さい直径を有し、前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)に接近して配置され、かつ隣接する前記一列に配置された他の乾燥シリンダー(94)の間に配置されると共に部分真空源に接続された他の複数の真空ロール;
及びウエブ(W)に接して前記複数の他の一列に配置された乾燥シリンダー(94)と前記複数の他の真空ロールのまわりを走行する第2のフェルト(110);
を備えた一列に配置された他の複数の乾燥シリンダーを有する他の乾燥部分;
及び前記乾燥部分から前記他の乾燥部分へウエブ(W)を移送するウエブ移送手段(116);
を有するウエブの両面を乾燥する乾燥装置において;
前記ウエブ移送手段(116)は、前記乾燥部分と前記他の乾燥部分との間でフェルトに支持されない状態でウエブ(W)を移送するように構成されており;
前記フェルトに支持されない状態でのウエブの移送は第1ギャップと第2ギャップの間で行われ、前記第1ギャップは一列に配置された複数の乾燥シリンダーを有する前記乾燥部分の最後の乾燥シリンダー(63)の表面と前記第1のフェルト(72)の間に形成される拡開するギャップであり、前記第2ギャップは一列に配置された複数の他の乾燥シリンダーを有する前記他の乾燥部分の第1の他の乾燥シリンダー(94)の表面と前記第2フェルト(110)との間に形成される収斂するギャップであり、同収斂するギャップは前記拡開するギャップに対向して位置する;
ことを特徴とするウエブの両面を乾燥するウエブの乾燥装置。」
Ⅱ.これに対して、原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に頒布された特公昭61-23319号公報(以下、「第1引用例」という。)及び特公昭60-29800号公報(以下、「第2引用例」という。)には、それぞれ次の技術的事項が記載されている。
[第1引用例]
「第1図に示されている抄紙機の多段シリンダ乾燥装置の第1乾燥シリンダ群は1列の上方シリンダ10aおよび一列の下方シリンダ20aを有する。シリンダ10a並びに20aは蒸気で加熱でき、・・・シリンダ群は乾燥ワイヤ40aを有し、下方列のシリンダ20aはワイヤのループの中に位置し上方列のシリンダ10aはワイヤのループの外側に位置する。
ウエブWは公知の配備で抄紙機の圧搾部から乾燥シリンダ群へ導入され、そしてこのウエブは全時間にわたって布状組成体(ワイヤ)40aによって支持される閉送り状態で乾燥シリンダ群を通過する。上方シリンダ列においてウエブはシリンダ10aの加熱面に直接接触する。ウエブWは望ましくは180゜を越える角度rで上方シリンダ10aを囲む。下方シリンダ20aにおいてウエブは布状組成体40aの外側上に位置し、よって布状組成体40aがウエブとシリンダ20aの加熱表面の間に介在する。・・・・・
布状組成体40aおよびその外面上のウエブWは角度βで下方シリンダ20aを囲む。この扇形部βの外側の残りの扇形部αの上には、シリンダ10aの間の間隙の中の真空室30aが配置される。・・・・・
真空室30aの中の減圧されている真空空間からの吸引作用はシリンダ20aの外殻内の溝22を介してシリンダ20aの扇形部βに作用する。この吸引作用の結果として、ウエブWは保持されシリンダ20aの扇形部βにおける布状組成体40aから離れない。・・・・・
第2図に示されるこの発明による配備は乾燥部において連続する2つのシリンダ群100および200を有し、第1群100の下方列におけるシリンダ20aは溝付きシリンダであり、後続群における上方シリンダ20bも溝付きシリンダである。この配備によれば、ウエブWの両側すなわちその下側および上側が引続いて接触乾燥されるという結果が得られる。・・・・・
シリンダ群100、200に属する布状組成体40a、40bは標準の乾燥用のワイヤまたはフェルトでよい。」(公報第7欄第6行目~第9欄第13行目)との記載が第1図及び第2図の記載とともにあり、第2図の記載によれば、第1シリンダ群100から第2シリンダ群200へウエブWを移送するウエブ移送手段は、第1シリンダ群と第2シリンダ群との間で布状組成体に支持されない状態でウエブを移送するように構成されており、前記布状組成体に支持されない状態でのウエブの移送は第1ギャップと第2ギャップの間で行われ、前記第1ギャップは一列に配置された複数の乾燥シリンダを有する前記第1シリンダ群の最後の乾燥シリンダの表面と前記第1シリンダ群の布状組成体の間に形成される拡開するギャップであり、前記第2ギャップは一列に配置された複数の乾燥シリンダを有する前記第2シリンダ群の第1の乾燥シリンダの表面と前記第2シリンダ群の布状組成体との間に形成される収斂するギャップであり、同収斂するギャップは前記拡開するギャップに対向して位置するようになっているものと認められる。
してみると、上記第1引用例には、
ウエブの一方の面に直接面接触してウエブの一方の面を乾燥する一列に配置された複数の乾燥シリンダ;
各々が一列に配置された前記一列に配置された乾燥シリンダに隣接する前記一列に配置された乾燥シリンダの間に配置されると共に部分真空源に接続された複数の溝付き乾燥シリンダ;
及びウエブに接して前記一列に配置された複数の乾燥シリンダと前記複数の溝付き乾燥シリンダのまわりを走行する第1シリンダ群のフェルト;
を備えた一列に配置された複数の乾燥シリンダと一列に配置された複数の溝付き乾燥シリンダを有する第1シリンダ群;
ウエブの他方の面に直接面接触してウエブの他方の面を乾燥する一列に配置された複数の第2シリンダ群の乾燥シリンダ;
各々が前記一列に配置された第2シリンダ群の乾燥シリンダに隣接する前記一列に配置された第2シリンダ群の乾燥シリンダの間に配置されると共に部分真空源に接続された第2シリンダ群の複数の溝付き乾燥シリンダ;
及びウエブに接して前記複数の第2シリンダ群の一列に配置された乾燥シリンダと前記複数の第2シリンダ群の溝付き乾燥シリンダのまわりを走行する第2シリンダ群のフェルト;
を備えた一列に配置された第2シリンダ群の複数の乾燥シリンダと複数の溝付き乾燥シリンダとを有する第2シリンダ群;
及び前記第1シリンダ群から前記第2シリンダ群へウエブを移送するウエブ移送手段;
を有するウエブの両面を乾燥する乾燥装置において;
前記ウエブ移送手段は、前記第1シリンダ群と前記第2シリンダ群との間でフェルトに支持されない状態でウエブを移送するように構成されており;
前記フェルトに支持されない状態でのウエブの移送は第1ギャップと第2ギャップの間で行われ、前記第1ギャップは一列に配置された第1シリンダ群の複数の乾燥シリンダを有する前記第1シリンダ群の最後の乾燥シリンダの表面と前記第1シリンダ群のフェルトの間に形成される拡開するギャップであり、前記第2ギャップは一列に配置きれた複数の乾燥シリンダを有する前記第2シリンダ群の第1の乾燥シリンダの表面と前記第2シリンダ群のフェルトとの間に形成される収斂するギャップであり、同収斂するギャップは前記拡開するギャップに対向して位置する;
ウエブの両面を乾燥するウエブの乾燥装置、が記載されているものと認められる。
[第2引用例]
「ドライヤ胴5はドライヤ胴4の直ぐ下部におかれ、ドライヤ胴4からドライヤ胴5を通る時、ウエブとフェルトはターニングロール14の上を通るがこのターニングロールはドライヤ胴上にウエブを実質的に180度の角度にわたって巻き付かせるように、上下ドライヤ胴間において僅かばかり右側に配置されでいる。ターニングロールに続き、フェルトの内側のウエブは底部のドライヤ胴5上をその表面と直接接触して通過する。・・・・・
これらのターニングロールは平滑ロール、溝付きロール又は真空ロールのいずれでもよいが、第2図に符号23で示すPVロールとして知られているようなものが好適である。この第2図図示のものは外部の回転円筒25で囲まれた静止した内部管24を有する。内部管24には円周の半分に矢印24aで示したように空気の内部への流れができるように孔があいている。一対の直径方向に対立した漏れ止め24bと24cとが内部管と同心の回転円筒25との間に延在しており、これにより真空が回転円筒25の上半分が及ぶようになっている。このようなPVロール組立体はウエブがその上を通過する時、円筒の真空部分がウエブに当るように位置せしめられる。」(公報第6欄第16~42行目)との記載が図面の記載とともにある。
ターニングロールに真空ロールを使用する効果として、「真空ロールをターニングロールとして使うことで、ウエブがドライヤ胴の全部の通路でフェルト内面上に連続的に支えられているため、確実な通紙が達成されるし、またウエブが外側面で搬送され、逆転回する場合、真空式PVロールの真空でフェルトに保持される。」(公報第8欄第24~29行目)と記載されている。
そして、ターニングロールはドライヤ胴より小さい直径を有することは周知のことであり、第1図の記載からもこの点は明らかなことである、また、ターニングロールを上下ドライヤ胴間において僅かばかり右側に配置されているとのことは、一列に配置されたドライヤ胴に接近して配置されることに他ならない。
してみると、上記第2引用例には、
一列に配置されたドライヤ胴(本願の請求項1に係る発明の「乾燥シリンダー」に相当する。)に隣接する一列に配置されたドライヤ胴の間に配置されるターニング部材をドライヤ胴より小さい直径を有し、一列に配置されたドライヤ胴に接近して配置される真空ロールとした、
点が記載されているものと認められる。
Ⅲ.そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、「前者」という。)と上記第1引用例に記載されたもの(以下、「後者」という。)を対比すると、後者の「乾燥シリンダ」は、前者の「乾燥シリンダー」に相当し、以下、「第1シリンダ群」は「乾燥部分」に、「第2シリンダ群」は「他の乾燥部分」に、「第1シリンダ群のフェルト」は「第1フェルト」に、「第2シリンダ群のフェルト」は「第2フェルト」に、それぞれ相当するから、
両者は、
ウエブの一方の面に直接面接触してウエブの一方の面を乾燥する一列に配置された複数の乾燥シリンダー;
各々が一列に配置された前記乾燥シリンダーに隣接する前記一列に配置された乾燥シリンダーの間に配置されると共に部分真空源に接続された複数のターニング部材;
及びウエブに接して前記一列に配置された複数の乾燥シリンダーと前記複数のターニング部材のまわりを走行する第1のフェルト;
を備えた一列に配置された複数の乾燥シリンダーを有する乾燥部分;
ウエブの他方の面に直接面接触してウエブの他方の面を乾燥する一列に配置された複数の他の乾燥シリンダー;
各々が前記一列に配置された前記一列に配置された他の乾燥シリンダーに隣接する前記一列に配置された他の乾燥シリンダーの間に配置されると共に部分真空源に接続された他の複数のターニング部材;
及びウエブに接して前記複数の他の一列に配置された乾燥シリンダーと前記複数の他のターニング部材のまわりを走行する第2のフェルト;
を備えた一列に配置された他の複数の乾燥シリンダーを有する他の乾燥部分;
及び前記乾燥部分から前記他の乾燥部分へウエブを移送するウエブ移送手段;
を有するウエブの両面を乾燥する乾燥装置において;
前記ウエブ移送手段は、前記乾燥部分と前記他の乾燥部分との間でフェルトに支持されない状熊でウエブを移送するように構成されており;
前記フェルトに支持されない状態でのウエブの移送は第1ギャップと第2ギャップの間で行われ、前記第1ギャップは一列に配置された複数の乾燥シリンダーを有する前記乾燥部分の最後の乾燥シリンダーの表面と前記第1のフェルトの間に形成される拡開するギャップであり、前記第2ギャップは一列に配置された複数の他の乾燥シリンダーを有する前記他の乾燥部分の第1の他の乾燥シリンダーの表面と前記第2フェルトとの間に形成される収斂するギャップであり、同収斂するギャップは前記拡開するギャップに対向して位置する;
ウエブの両面を乾燥するウエブの乾燥装置、である点で一致し、
一列に配置された乾燥シリンダーに隣接する一列に配置された乾燥シリンダーの間に配置されるターニング部材が、前者では、乾燥シリンダーより小さい直径を有し、一列に配置された乾燥シリンダーに接近して配置される真空ロールであるのに対して、後者では、このターニング部材が溝付き乾燥シリンダーである点、で相違する。
Ⅳ.そこで、上記相違点について検討すると、一列に配置された乾燥シリンダーに隣接する一列に配置された乾燥シリンダーの間に配置されるターニング部材を乾燥シリンダーより小さい直径を有し、一列に配置された乾燥シリンダーに接近して配置される真空ロールとしたものが上記第2引用例に記載されており、また、上記第1引用例及び第2引用例に記載されたものは、共に単一のフェルトを乾燥シリンダーに掛け渡して、ウエブをフェルトに常に支持された状態で乾燥する乾燥装置である点で共通し、また、フェルトの外側にウエブが位置する状態でターニング部材をまわるときに、それらに真空を作用させてウエブがフェルトから離れないようにするという目的においても共通するものであるから、上記第2引用例に記載されているような乾燥装置の形式を上記第1引用例に記載された乾燥装置の形式に採用して本願の請求項1に係る発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得るものであり、また、それによる効果も当業者が予測できる範囲内のものと認める。
Ⅴ.したがって、本願の請求項1に係る発明は、上記第1引用例及び第2引用例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成9年5月16日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。